けものみちと言う言葉をご存じだろうか? そう、山なんかで動物だけが通る道である。
それと同じように、カメラマンしか通らない道がある。
写真の撮影地点へ行く為にカメラマンだけが通る道である。
わたしは、五能線でよく見かけた。
五能線の、秋田県から県境を越えて、青森県へ入ってすぐの所に、トンネルがある。
そのトンネルのある山の山頂から写真を撮ろうと思い、ある初夏の日に出かけた。
現場に着いて、いざ山に登ろうとすると、イタドリと言う草が背丈以上に伸びていた。
つい一ヵ月前には、1メートルたらずだったのに、雑草の成長の速いのには驚かされる。
そこは、本来人が通る道なんだが、最近通った形跡が全く感じられない。
草をかき分け3メートルくらい進んだが、ウンカの抜け殻だろうか、白い粉みたいなものがボワ〜っと舞い上がって、
顔からなにから体中にまとわり着く、その気持ちの悪いこと、すぐにリタイア。
道をつける事にした。
車に戻り、帽子にサングラス、タオルで覆面、手には軍手、カマを持って来てイタドリを苅り始めた。
それで10メートルは草を苅り、りっぱな道が出来たが、飽きたので「今日はここまで」。
山頂迄は、およそ50メートル、次に来た時に又10メートル苅ったが、飽きた。
それでも、秋口には山頂にあと20メートルまで迫った。
次に行った時には雪が舞っていた。
イタドリは、葉もすっかり落ちて茎だけになっていて、わざわざ苅らなくても、どこでも好きな方向へ自由に歩ける状態になっていた。
苅らなきゃよかった。
後日、居酒屋で酒を呑みながら友人にこの話をしたら、「おまえは骨折り損のくたびれ儲け男だ」と言っていた。
そこのトンネルの所からどんどん北上し、深浦駅を過ぎた所に小さい岬がある。
国道101号線と海の間を線路が走り、初夏には線路脇の土手に黄色い日光キスゲが咲く、そこの場所がちょっとした撮影適地だ。

海には点々と岩があり、風の強い時などは波しぶきが岩にくだけ、ちょっと日本離れをした、いい風景である。
春先はなんにも問題はないのだが、やはり夏、あたり一面、背丈以上のイタドリの大群落になる.

そこには、カメラマン道がある。
表からはちょっとわかりにくいが、草の中に分け入ってみると、りっぱな道が付いている。
その道を辿って行くと、自動的に撮影地点に辿り着く。
わたしも道をつける時は、決して表から解るような付け方はしない、ケチではない、自然景観を壊してはいけないからである。
とはいえ、自分が一生懸命つけた道を、あとから来てタダで楽々通られるのも癪だ、という心が無いとも言えない。
夏に列車の撮影に行ったら、ぼうぼうの草にひるまず、少し中に分け入って見ると、案外道が発見できるかも知れない。

ある年の冬、雪が積もっていたこの場所へ撮影に行った。
ここの場所は国道より少し低いので、車は勢いをつけて登らなければならない。
具合の悪い事には、国道がカーブしていて見通しが利かないので、国道の直前まで行かないと走って来る車が見えない。
さて、勢いをつけて車を発進させ、国道に出ようとしたら、運悪くバスが来たので、緊急停止。
すると、なぜか目の前でバスが止まって、運転手が窓から顔を出した。
そして私に向かって、大きな声で「おお〜い、ロープ持っていたら引っ張ってやるぞー」と言った。
雪でスリップして、わたしの車が国道に上がれないと思ったらしい。
「大丈夫です〜、勢いを付ければ登れますから〜」。
「そ〜か〜」という声と共に、「ブー」といってバスは走って行った。
バスには、乗客が乗っていた。
それにもかかわらず、引っ張ってあげようという、津軽の人の心意気、嬉しい思い出のひとつである。