青函トンネル、遥か地底からの鼓動

本州と北海道を結ぶ青函トンネルが開通したのが1988年の3月13日。

鉄道の海底トンネルとしては世界最長の53.85 km。

ちなみに2番目は、イギリスとフランス間のドーバー海峡49.2km(このトンネルも日本の技術者が掘削したもの)。

3番目は、日本の新関門トンネル18.37km。(本州〜九州)。

わたしが初めて青函トンネルを訪れたのは、開通の年の1月。

積雪は20センチ、とても寒い日であった。

トンネルの入り口は、地面より高架になっていて、右手前50メートルの所に車を止めるスペースがあった。

撮影の目的は、試験走行中の「海峡号」である。

高架の海峡線をくぐった反対側のところにちょっとした高台があり、そこから撮る事にした。

機材を持って法面(のりめん=坂)に差し掛かった時、突然首まで雪に埋まってしまった。

側溝に落ちたのである、「ん!なんだ?」と思った時には目の前が真っ白になっていた。

法面は雪に被われていて、とてもその下に深い側溝があるとは思えなかったので、一瞬なにがおこったのか解らなかった。

落ちるには丁度よい高さだったのだろうか、怪我もなく機材もなにひとつ壊れることなく無事であった。

冬の津軽半島は、風が強いので、雪が少なくてもところどころに吹きだまりが出来るから、気を付けなければいけない。

現にここへ来る途中で、近道をしようとして林道を走って来たら、車が吹きだまりに突っ込んでしまった。

吹きだまりは、ほんの10メートル位だったので、スピードを上げて一気に突っ切ろうとしたが、あと3メートルというところで埋まってしまった。

スコップで、えっさえっさと30分、汗をかいてしまった。

さて、そんなこんなでようやく撮影にかかったのだが、今度は列車がなかなか時間どうりに来てくれない。

1時間に2本の割合で走っているのだが、10分とか20分とか平気で遅れて来る。

この日は特に寒い日だったので、我慢できなくて車に戻った途端に行ってしまったりで、なかなか撮影の方は進まなかった。

しかし、いつ来るかわからない事でかえって不思議な体験ができた。

それは、トンネルに耳を傾けた時にわかった事である。

真冬の寒い日、風もなく雪が積もっていて、鳥の声もなく、もちろん人っ子ひとり居ないので全くの無音の世界である。

  ・・・・「来た」。・・・・

しかし、耳をすましても何も聞こえて来ない。

しばらく経ってから、微かに 微かに カタカタ カタカタ・・・・・・と、聞こえてくる。

遥か彼方の地底の奥から、だんだんと近ずく感じが、ひしひしと耳から伝わってくる。

そして、急に音が大きくなったかと思ったとたん、ゴー!!という凄まじい音と共に列車が飛び出して来る。

列車は、ゴーガタガタガタという音とともに、目の前を凄まじい勢いで通り過ぎる。

列車が通り過ぎてしばらくすると、今度はレールから音が聞こえる。

最初は、ゴーであるが、その内ガタガタからカタカタになり、カタカタ カタ カ タ・・・。

耳に聞こえてないのに列車が来たのがわかる。

人間の5感というか、動物の本能というか、そういうもので低周波とかを感じとるのであろうが、それが、すごく楽しい。

何回かは、写真を撮らないで、目をつぶってジイーっと音だけを楽しんだ。

頭の中に、あの松本零二の「銀河鉄道999」のワンシーンが浮かんで来る。

トンネルの大きさとか、構造とかいろいろな要素がからみあって、あのような感覚が味わえるのだと思う。

冬の風のない雪の日、青函トンネルの入り口に立って耳を澄ますと、銀河鉄道999とメーテルに会えるかも知れない。

銀河鉄道999のHPへ!

この場所は今は公園になっていて、雪の日でも側溝に落ちる人はいないという。トンネルの入り口には、「道随函青」と書いてある。右から読む。

後日、秋田から函館への1泊2日のツアーの取材で、団臨(団体専用の臨時列車)でこのトンネルを通過する機会に恵まれた。

列車がトンネルに入る所を撮ろうと思い、客室の窓は開かないので、車掌室の小窓からの撮影になった。

11月の末だったので、窓を開けるとかなり寒い。

この辺はトンネルが多いのだが、青函トンネルに入る時だけ窓を開ければいいので、窓を閉めてトンネルの数を数えていた。

さて、次のトンネルを過ぎると青函トンネルだと思いつつ窓を開けようとすると、何故か見覚えのある風景だ。

「アッ、数え間違えた!」

わたしの写真人生の数多い失敗の中でも、いつまでも心に残っているワンカットである。